婦人科腫瘍

子宮頸がん

子宮頸がんは子宮頸部(腟に近い部位)から発生するがんで、多くはヒトパピローマウイルスの感染によって生じます。出産可能な30歳台から閉経後まで幅広く罹患します。子宮頸がんの予防にはヒトパピローマウイルスワクチンが有用です。多くの先進国では広く普及し、ヒトパピローマウイルス感染は減少しています。しかし、日本ではいまだ普及しておらず、さらに有効な婦人科検診の受診率も低く、若年での子宮頸がんが増加しています。

子宮頸がん治療には手術と放射線治療があります。手術で摘出可能な患者さんに対しては子宮の摘出、骨盤内のリンパ節の摘出を標準的な手術としております。しかし、進行期や組織の悪性度によって術式が異なり、当院では術前の検査でがんが小さく、かつ組織の悪性度が低い早期子宮頸がんと診断された場合に、保険適用の治療として腹腔鏡手術を選択することもできます。また、術前の画像検査でがんが進行していた場合には、放射線治療をお勧めしています。通常放射線治療の効果を高めるために化学療法(抗がん剤)を併せて行います。

不幸にも子宮頸がんと診断されても、子供が欲しいという希望がある場合には子宮を残し、病変部分だけを取り除く子宮温存手術が可能な場合があります。ただし子宮を温存したことによって、がんの根治性が損なわれては意味がないため、この手術の適応は症例の選択がとても重要になります。当院でも実施していますのでご相談ください。

子宮体がん

子宮体がんは子宮の奥の粘膜から発生するがんで、子宮内膜がんとも言われます。子宮体がんと診断される人は50歳から60歳代の閉経前後に最も多く、近年は食生活の欧米化などに伴い増加しています。

子宮体がんの治療は手術が基本であり、当院では、子宮の摘出および両側付属器(卵巣と卵管)の摘出、骨盤内のリンパ節の摘出を標準的な手術としていますが、進行期や組織の悪性度によって術式は異なります。術前の画像検査でがんが子宮の内膜に留まり、かつ組織の悪性度が低い早期子宮体がんと診断された場合には、保険適用の治療として腹腔鏡またはロボット支援下による内視鏡手術を第一にお勧めします。この手術は開腹手術に比べ、術後の身体の回復が早いのが特徴です。また、術前の画像検査でがんが進行していた場合、がんの悪性度が高いと診断された場合や手術中に子宮外へのがんの広がりが明らかになった場合には、開腹手術をお勧めし、標準術式に加えて骨盤部から腎動静脈までの間の傍大動脈リンパ節や大網(胃から大腸(横行結腸)の前に垂れ下がって存在する腹腔内リンパ組織)の切除を行います(傍大動脈リンパ節郭清・大網切除術)。術後の病理検査で転移を認める場合、腫瘍が大きい場合など再発リスクが高いと判断された場合、診断時に遠隔転移を認める場合は化学療法(抗がん剤)を行います。

子宮体癌に対するロボット支援下腹腔鏡手術

卵巣がん(卵管がんや腹膜がん)

卵巣がんは卵巣から発生するがんで、近年増加傾向にあります。卵管がんや腹膜がんというまれな腫瘍がありますが、病態や治療戦略は卵巣がんと同じです。卵巣がんの治療は開腹手術と化学療法を組み合わせて行うことが基本です。

手術療法としては、卵巣・卵管の摘出、子宮の摘出、大網を含む病巣の可及的摘出を行います。腸などの他臓器切除も必要な場合があるため、手術が長時間に及ぶことがありますが、根治を目標とした場合は腫瘍をできるだけ取り除くことが重要です。病期が進んでいる場合は、腫瘍の切除率を上げるために手術の前に化学療法を行うことがあります。また、まず腹腔鏡手術でがんの診断を行い、開腹手術を計画する場合など手術を2回に分けて行うこともあります。

卵巣がんは自覚症状が乏しいため早期発見が難しく、腹腔内や他臓器に転移している進行がんの状態で診断されることが多く、予後の厳しいがん腫と言われてきました。しかし、分子標的薬がいくつか承認され、腫瘍の遺伝子(ゲノム)検査の結果によって適切な分子標的薬と化学療法(抗がん剤)を正しく組み合わせることにより、本人にあった治療を行うことができます。


卵巣癌に対する手術

がんゲノム検査

遺伝性乳癌卵巣癌症候群に対するリスク低減卵管卵巣摘出術

BRCA1またはBRCA2遺伝子に病的バリアント(遺伝子に病的な変化があること)を有する女性はBRCA関連婦人科癌(卵巣癌、卵管癌あるいは腹膜癌)に罹患する可能性が高く、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と言われています。乳がんまたは卵巣がんの治療方法の選択のために行う遺伝学的検査や、再発がんに対するがんゲノムプロファイリング検査を行った結果、遺伝性乳癌卵巣癌症候群と診断されることがあります。また、家系内にBRCA1またはBRCA2遺伝子に病的バリアント保持者が確認されている場合、遺伝学的検査(自費)を行って診断されることもあります。

卵巣癌の生涯発症危険率は、BRCA1に病的バリアントを認める場合は35-63%、BRCA2病的バリアントを認める場合は10-27%で、一般女性と比較すると35~40倍と報告されています。現在、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の患者に対してリスク低減卵管卵巣摘出術(risk-reducing salpingo-oophorectomy:以下RRSO)が最も確実性のある予防策であると言われています。当院において、HBOC関連癌(乳がん)の既往がありかつBRCA1またはBRCA2遺伝子に病的バリアントを有する方は保険で手術を受けることができます。また、乳がんの既往がない方は臨床試験として自費診療で手術を受けることができます。

臨床試験・治験

大学病院では今の医療技術を発展させるという社会的使命があります。科学・技術の発展により今後も様々な新しい方法があみだされてきます。臨床研究というのは、新しい技術や薬などが本当に今の診療と比べて有益なものかどうかを調べるものです。現在の診療は過去の経験やデータに基づいて行われていますが、これは過去において臨床研究を経て科学的に有用であると証明されていることが多いのです。産婦人科では様々な臨床研究を率先して行っています。条件に該当する患者さんにおいて、参加の提案を担当医師から説明することがあります。是非ともご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

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